2024年5月に公布された「情報流通プラットフォーム対処法」はどんな法律なのか、企業にはどんな対策が必要になるのかを解説していきます。
■ 本記事の概要
近年、インターネット上での誹謗中傷や著名人のなりすまし広告が深刻な社会問題となっています。この問題に対し、2024年の通常国会において「プロバイダ責任制限法」の改正案(情報流通プラットフォーム対処法)が提出され、5月10日に参院本会議で可決、5月17日に公布されました。
「情報流通プラットフォーム対処法」には、インターネット上における誹謗中傷等の相談件数が高止まりする状況を踏まえて、SNSなどを運営する大規模プラットフォーム事業者(=大規模特定電気通信役務提供者)に対し新たな規制が加えられました。
例えば、一定期間内の削除申出への対応や削除基準の策定・公表を義務付けるなどが挙げられます。
今回は、情報流通プラットフォーム対処法がプロバイダ責任制限法から名称変更して改正に至った背景や、具体的な変更内容、施行によりどのような影響をもたらすのか、などを解説します。
「情報流通プラットフォーム対処法」とは?
正式名称 | 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律 |
---|---|
通称 | 情報流通プラットフォーム対処法 |
公布日 | 2024(令和6)年5月17日 |
施行日 | 公布日から起算して1年以内の政令で定める日 |
今年2024年の通常国会において、「プロバイダ責任制限法」を改正し、「情報流通プラットフォーム対処法」へと名称変更する法律案が可決、公布されました。
情報流通プラットフォーム対処法には、インターネット上における誹謗中傷等の相談件数が高止まりする状況を踏まえて、SNS事業者などを運営する大規模プラットフォーム事業者(=大規模特定電気通信役務提供者)に対し新たな規制が加えられています。
これまでのプロバイダ責任制限法(=「特定電気通信役務提供社の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)では、投稿者の発信者情報の開示等が挙げられていましたが、今回の改正案ではそれらにとどまらない内容となったため、名称を変更することになりました。
■ 情報流通プラットフォーム対処法へと改正される背景
近年、インターネット上のSNS等を利用して行われる誹謗中傷などの他人の権利を侵害する被害が深刻化しています。総務省「違法・有害情報相談センター」で受けている令和4年度の相談件数は5,745件となり、令和3年度の件数よりも減少したものの、依然として高止まりしています。
相談件数の内訳をみると、6割以上が投稿の「削除方法を知りたい」が最も多く、投稿が拡散されることを防ぐために迅速な削除を求めていることがわかります。
ただ投稿の削除に関しては制度化が進んでおらず、課題が多く存在するとして、従来のプロバイダ責任制限法に大規模プラットフォームを対象とする規制を追加して、新たに情報流通プラットフォーム対処法として再編されました。
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情報流通プラットフォーム対処法で新たに追加された規制
前述した課題から、誹謗中傷など人の権利を侵害するような情報(=侵害情報)があった場合、これまでの「プロバイダ責任制限法」では投稿をした利用者の情報の開示を求めるもので、投稿を削除させるにはサービス事業者との交渉や、裁判などを通して権利侵害されていることを立証する必要がありました。
しかし、今回の「情報流通プラットフォーム対処法」では、SNSなどの月間アクティブユーザー数などが一定数以上の大規模プラットフォーム事業者(=大規模特定電気通信役務提供者)を対象に下記2点を義務づけました。
- 削除申出への対応の迅速化
- 運用状況の透明化
これにより、削除申出への対応や仕組作りを事業者に求めることで、相談が一番多かった”投稿の削除”ができ、投稿の拡散を未然に防ぐことが期待されます。
■ 大規模プラットフォーム事業者(=大規模特定電気通信役務提供者)とは
今回対象として挙げられている「大規模特定電気通信役務提供者」とはどんな事業者を指すのかを詳しくみていきましょう。
「大規模特定電気通信役務提供者」とは、大規模特定電気通信役務を提供する者として、総務大臣に指定された事業者をいいます。(情報流通プラットフォーム対処法(以下、情プラ法)2条14号・20条1項)
この総務省が指定する事業者の規模に関する基準は、総務省令により定められることになっていますが、「平均月間発信者数」または「平均月間延べ発信者数」によって判定するとされています(情プラ法第20条第1項1号)
ただ各号を確認すると、発信者数の要件を満たす事業者でも、一律に大規模特定電気通信役務提供者の指定対象となるわけではありません。侵害情報送信防止措置を講ずることが技術的に可能であること、かつ権利侵害発生のおそれが少ないものに該当しないことも要件とされています(同項2号・3号)。
大規模特定電気通信役務提供者の義務
改めて情報流通プラットフォーム対処法により、大規模プラットフォーム事業者(=大規模特定電気通信役務提供者)に以下の義務が課されます。
- 総務大臣に対する届出
- 被侵害者からの申出を受け付ける方法の公表
- 侵害情報に係る調査の実施
- 侵害情報調査専門員の選任・届出
- 送信防止措置の申出者に対する通知
- 送信防止措置の実施に関する基準等の公表
- 送信防止措置を講じた場合の発信者に対する通知等
- 送信防止措置の実施状況等の公表
ここからはそれぞれの義務の内容がどういったものなのかを具体的にみていきましょう。
■ 総務大臣に対する届出
大規模特定電気通信役務提供者は、総務大臣による指定を受けた日から3月以内に、総務省令で定めるところにより、「氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名」など所定の事項を総務大臣に届け出なければなりません(情プラ法21条1項)。
所定事項の詳細は、今後出される総務省令で定められる予定です(同項3号)
また、大規模特定電気通信役務提供者としての届出事項に変更があった場合には、遅滞なくその旨を総務大臣に届け出る義務を負います(情プラ法21条2項)。
■ 被侵害者からの申出を受け付ける方法の公表
大規模特定電気通信役務提供者は、総務省令で定めるところにより、情報の流通によって自己の権利を侵害された者(「被侵害者」)が侵害情報送信防止措置を講ずるよう申出を行うための方法を定め、これを公表しなければなりません(情プラ法第22条1項)。
その方法は、以下いずれにも適合するものではなければなりません(同条2項)。
- 電子情報処理組織を使用する方法による申出を行うことができるものであること
- 申出を行おうとする者に過重な負担を課すものでないこと
- 申出を受けた日時が当該申出を行った者に明らかとなるものであること
■ 侵害情報に係る調査の実施
大規模特定電気通信役務提供者は、被侵害者から侵害情報送信防止措置を講ずるよう申出があったときは、当該申出に係る侵害情報の流通によって当該被侵害者の権利が不当に侵害されているかどうかについて、遅滞なく必要な調査を行わなければなりません。(情プラ法第23条)
■ 侵害情報調査専門員の選任・届出
大規模特定電気通信役務提供者は、前述の侵害情報に係る調査のうち専門的な知識経験を必要とするものを適正に行わせるため、権利侵害への対処に関して十分な知識経験を有する者のうちから、侵害情報調査専門員を選任しなければなりません(情プラ法24条1項)。
「権利侵害への対処に関して十分な知識経験を有する者」とは、SNSや掲示板などで発生する誹謗中傷やプライバシー侵害などの権利侵害への対処に十分な知識や経験を有する者を指すため、ただ選任すればいいというわけではございません。
また、この侵害情報調査専門員の数は、大規模特定電気通信役務提供者が提供するプラットフォームでの平均月間発信者数などに応じて、総務省令で定める数以上でなければなりません(同条2項)。
大規模特定電気通信役務提供者は、侵害情報調査専門員を選任したときは、総務省令で定めるところにより、遅滞なく、その旨及び総務省令で定める事項を総務大臣に届け出なければなりません。侵害情報調査専門員を変更したときも、同様に届出が必要となります(同条3項)。
■ 送信防止措置の申出者に対する通知
大規模特定電気通信役務提供者は、侵害情報送信防止措置の申出があったときは、調査の結果に基づき侵害情報送信防止措置を講ずるかどうかを判断し、侵害情報送信防止措置の申出を受けた日から14日以内の総務省令で定める期間内に、正当な理由がなければ原則、侵害情報送信防止措置を講じたか否かなどの事項を申出者に通知しなければなりません(情プラ法25条1項)。
通知までの期限を明示することで、大規模プラットフォーム事業者に対し迅速な対応を課すことができ、申出者もその申請結果を確認することができます。
■ 送信防止措置の実施に関する基準等の公表
大規模特定電気通信役務提供者が送信防止措置を講ずることができるのは、原則として、自らで定め、公表している削除基準などに従う場合に限られます。また、その基準は、当該送信防止措置を講ずる日の総務省令で定める一定の期間前までに公表されていなければなりません(情プラ法26条1項)。
この基準を定めるに当たっての注意点として、当該基準の内容が以下のいずれにも適合したものとなるよう努めなければなりません(同条2項)。
- 送信防止措置の対象となる情報の種類が、当該大規模特定電気通信役務提供者が当該情報の流通を知ることとなった原因の別に応じて、できる限り具体的に定められていること。
- 役務提供停止措置を講ずることがある場合においては、役務提供停止措置の実施に関する基準ができる限り具体的に定められていること。
- 発信者その他の関係者が容易に理解することのできる表現を用いて記載されていること。
- 送信防止措置の実施に関する努力義務を定める法令との整合性に配慮されていること。
■ 送信防止措置を講じた場合の発信者に対する通知等
大規模特定電気通信役務提供者は、投稿の削除等の送信防止措置を講じたときは、原則として、遅滞なく、その旨及びその理由を当該送信防止措置により送信を防止された情報の発信者に通知し、又は当該情報の発信者が容易に知り得る状態に置く措置を講じなければなりません(情プラ法27条前段)。
また、公表する削除基準などに従って講じられたものであるときは、当該理由において、当該送信防止措置と当該基準との関係を明らかにしなければなりません(同条後段)
■ 送信防止措置の実施状況等の公表
大規模特定電気通信役務提供者は、毎年一回、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を公表しなければなりません(情プラ法第28条)。
- 第23条の申出の受付の状況
- 第25条の規定による通知の実施状況
- 第27条の規定による通知等の措置の実施状況
- 送信防止措置の実施状況(前1-3に掲げる事項を除く。)
- 前1-4に掲げる事項について自ら行った評価
- 前1-5に掲げる事項のほか、大規模特定電気通信役務提供者がこの章の規定に基づき講ずべき措置の実施状況を明らかにするために必要な事項として総務省令で定める事項
改正により考えられる事業者への責任と役割
本改正法案が成立することで、SNSや掲示板などの交流サイトを運営する事業者の責任と役割が変化することが考えられます。これまではプラットフォーム事業者によって自主的に対応していた相談窓口の公開やそこでのユーザー対応が、法的義務として明確化されることになります。また、削除に関する基準の整備や公表も事業者側が行う必要があります。
まとめ
今回は新たに可決・成立した「情報流通プラットフォーム対処法」の概要や想定される事業者の責任などについて解説しました。ただ今回の法案対象となる”大規模なプラットフォーム運営事業者”の定義は現状では公表が無く、今後詳細があきらかになるとされています。引き続き弊社でも関連情報を注視し、動向に変化があればそれに応じた対応について情報を発信していきます。
今回の政府の動きから、規模を問わず同様なプラットフォーム運営事業を営む企業においては消費者の目が厳しくなることが予想されます。削除基準の策定・公表や申請窓口の公開など、ユーザーが安心して利用を継続できる利用環境整備をこの機会に是非ご検討ください。
弊社では、SNSをはじめとした各種インターネットメディアがユーザーにとって安心・安全な環境で運用されるよう、投稿監視やSNSリスク即時検知(風評調査)などのサービスを25年以上提供しており、不適切な投稿への監視基準の策定支援なども、お取引先企業の業界特徴に応じて行ってきた豊富な実績とノウハウがございます。それらのサービス提供に伴い発生するユーザーからの問合せ対応もあわせて実施可能ですので、今回の「情報流通プラットフォーム対処法」に応じた対応検討とあわせ、是非弊社サービスのご活用をご検討頂ければと思います。
・投稿監視サービス
SNSや掲示板、ECサイトなど様々なプラットフォームにおいて、投稿されるコメントやレビューに誹謗中傷や公序良俗にあたるものや、ブランド棄損につながりそうなものなど企業様がリスクと感じる投稿をチェックし、報告をします。仕様によっては、報告だけでなく削除対応までを実施します。
詳細リンク→https://www.e-guardian.co.jp/service/net-patrol/manned/
・カスタマーサポート代行
ユーザーからWEBフォームなどを通じていただく各種お問い合わせの対応を企業様に代わって実施します。24時間365日体制を保持しているため、自社では対応できない就業後の時間帯や、土日祝日のみなどご要望に応じて体制構築が可能です。
詳細リンク→https://www.e-guardian.co.jp/service/customer-support/user-support/
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